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TW4、百花荘と呼ばれる下宿屋に住まう少年少女の日常。 ※わからない人にはただのSS置き場。リンクはTW関係者のみフリー。
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それを、「おかしい」と感じる間もなく世界が急変した。
花月鏡の背に突き刺さっていたのはアイスピックだった。
家に置いてあったものを持ち歩いていたのだろうか、それともわざわざ買ってきたのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。問題は刺した人間にあった。

「だめだよぉ。隙だらけだと殺しちゃうよ?」




彼女の殺気にだれも気付かなかった。
否、彼女はさっきすら放つことなく静かに、ごく当たり前であるかのように彼を刺した。
つい先ほど、闇に呑まれた鏡を必死に呼びかけていた少女の声と、
たった今鏡を刺した少女の声はほとんど同じ響きを持っていて、
強いて違いを上げるとするならば、こめていた感情が異なっていた程度か。

懇願と、歓喜。

鏡が刺されたことに真っ先に気付いたのは宮呼だった。
素早く鏡の腕を引いて彼女から距離を置くと防護符で彼に癒しと守護の力を授ける。
次に動いたのは真黍だ。
低姿勢で彼女へと突撃し、滑り込むように懐へと入りこむと愛刀を引き抜いた。
抜刀と同時に繰り出される斬撃は少女の腹から胸へと一筋に斬り上げられる。
はずが、そこにすでに少女の姿はない。

「こっちこっち♪おねーさん」

真黍の耳元で甘い響きを孕んだ少女の声が聞こえた。
刹那、腹部に激しい痛みと衝撃。少女は何らかの攻撃を仕掛けていた。
攻撃を仕掛けた体勢のまま真横へと吹き飛ぶ真黍は受け身も取れず、地を転がった。
楽しげに笑う少女へと無言で殴りかかったのは灯人だ。
握りこんだ拳の内側、契約の指輪につけられた鋭い鋲が掌を傷つければ、
攻撃の瞬間に拳は激しく燃え上がり、炎血を宿した灯人の拳が少女へと微塵の容赦もなく叩き込まれる。
しかし届かない。紙一重で交わされ、少女は灼滅者たちから距離を取った。

「もー。なになに?なんで邪魔するのー」

子供らしい膨れ面を見せて、少女は灼滅者たちを見やる。
吹き飛ばされた一人は仲間の手を借り立ち上がり、自分を殴ろうとした男はじっと睨みつけてきている。
だが、そんな彼らよりも一際強く、自分へと向けられた視線に気づく。
強い憎悪を持って自分を見る女の目――紫水晶にも似た輝きにほんのりと笑みを浮かべた。
少女へと宮呼が低く、怒りを殺しきれぬ声で問う。

「何故だ。何故刺した」
「なぜって。背中向けて隙だらけだったんだもん」
「どうしてだ、ついさっきまで。お前は鏡に呼びかけ続けていた」
「私あいつ嫌い。私と同じのくせに全然殺さないし。なら元に戻ってもらった方がいい。方法があるならそれに従うまでよ」

唇を尖らせる様子は年相応の少女のそれだ。
けれど、彼女の言葉に込められた狂気はその場にいる誰よりも深く、澱み切っていた。

「私、その人を殺すためにずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーっと待ってたの。
 そしたらさ、急に容赦も殺る気もなんもなくなっちゃったじゃない、もうどうしようかって思ったの。
 そこへ貴女たちが来てくれた!『鏡を取り戻す』って確かに言ってくれた!
 私嬉しくなっちゃって!だから協力したの、私が殺したくて仕方ない『花月鏡』を取り返してくれる貴女たちに!」

少女の喜びに満ちた独白を宮呼は苦虫を潰した顔で小さく毒づいた。
視線を落とせば戦いの影響か、鏡が力なく自分の膝の上で気を失っていた。
もしかしたら、少女に刺された事実から逃げるように、意識を手放したのかもしれない。
そしてもし、彼がたった今少女の口から語られた真実を聞いていれば
今度こそ戻ってこれないほどの深い闇に落ちていたかもしれない。
それだけが救いだった。宮呼は再び少女へと視線を向けなおす。
隣にヒカリが寄ってきた。囀るような小さな声で、敵となった少女を見ながらも宮呼に話しかける。

「らおちゃん、どうする?結構ピンチだよ」
「わかってる。あれを相手に鏡を守りきることは今の我々では不可能だ」

先ほどまでの『ギョウ』と名乗った六六六人衆との戦いでの負傷。
戦ってきた多くのダークネス達にとどめを刺してきた真黍と灯人を平然といなす彼女の実力。
どうあがこうが彼女たちにその少女と戦い勝利する可能性はない。
それどころか、相打つ可能性も手傷を負わせることすら難しいのではないだろうか。
冷静を装い、少女を睨む。考えろ、次にどう動くべきなのか。

次の瞬間、少女から滲み出る殺意が形を成す。
殺意の雨は最後列に控える宮呼とヒカリとナノナノ「エル」、
そして気を失ったままの鏡を狙って降り注がれる。
宮呼は鏡だけでも守ろうと防護の札を展開させるが間に合わない。
短い時間の中で彼女がとった行動は己が身を盾にすること。
強烈な殺意が背を打ち付ける感覚に歯を食いしばりながらも、
鏡にだけは当たらぬようにと抱きしめる腕に力を込める。
殺意の雨が止んた時、宮呼は力なく倒れこむ。胸に彼を抱いたまま。
少女はにぃ、と笑みを向けて宮呼たちへと近寄ろうとした。

「内緒話なんてずるーい、私も混ぜてよ、ねぇねぇ」
「や、なのだよ。黙っててキミ」

宮呼同様に攻撃を受けるはずだったヒカリは前衛から彼を守りに来た百合架のおかげで、
怪我一つ追うことなく次の攻撃へと転じていた。矢を引き絞り、ありったけの力で穿つ。
少女へと向けて放たれた一矢は彗星のごとく美しい尾を引きながらも、
地へ堕ちる星と同等に強烈な威力を持って彼女の心臓へと吸い込まれる。
漸く攻撃が命中した少女の身体はふわりと、倒れ込んで後方へ。
が、僅かに狙いが逸れたのか、流星の矢は彼女の腹部に突き刺さっている。
小さく舌打ちしたヒカリに百合架が表情の変化も見せずに、けれど恭しく声をかける。

「ヒカリ様、お怪我は?」
「ん、へーき。ありがとユリカ。……でもらおちゃんは」
「お任せを」

百合架の描きだした眩い十字の輝きが宮呼へと突き刺さる。
十字からは味方への癒しの力が迸り、見る見るうちに宮呼の傷が消えてゆく。
が、彼女の顔から疲労の色は消えることはなく、その眼差しに込められる力も弱くなっている。
これは危険だ。
ヒカリは彼女に変わり、冷徹に前衛の仲間たちへと告げた。

「ユリカ、ぼくらが逃げる間あれを食い止めて」
「お任せを」
「真黍ちゃん、動ける?キミにも頼みたいんだけど」
「任せてくれ。宮呼さんのことは頼んだぞ」
「勿論なのだよ。コウ!キミも残れる?援護してあげてほしい!」
「いいヨ。それにあの子の事、ちょっと気になるしネ。是非残ろう」
「ありがとね。灯人くんはぼくらと一緒に。らおちゃんと鏡を運ぶの手伝って」
「……女二人ともやしを残すのは気に入らねぇが、しゃーねぇ」
「チョット!ヒトの事もやし呼ばわりしないでヨ!」
「……待て、我も残ろうぞ」
「らおちゃんはぼくらのリーダーなんだから退かなきゃダメ」
「ヒカリ様、奴が動きます」
「わかった。みんな、散って!百花の宿でまた会おう!」
「「「「了解」」」」

少女が起き上がり、攻勢を整えるまでの短い時間。
手早く指示を送ったヒカリは宮呼の手を引いて走り出す。
鏡を抱えた灯人が普段通りの無表情に冷や汗を流しながら背後を一度振り返れば、
武器を構えた三人の仲間たちが己の闇を限界まで引き出して
圧倒的脅威となり始めたひとりの少女の前に立ちはだかっていた。

(後戻りはできない。あいつらも、俺も……)

何れ闇に堕ちた彼らと再会する日が来るのだろう。
その時再び、彼らを闇から救い上げることが出来るのだろうか。
不安だけが募る中、彼らはただ走った。遠く、唇を噛み締めながら。
 
「逃がさないよ、ようやく、ようやく殺せるの!そうでしょ鏡にい!」

遠ざかる広場から聞こえる。ようやく救えた男の妹が、花月胡華だったものが
――六六六人衆・キラークイーンが歓喜と興奮の入り混じった声で嗤う声が。
 
 
 

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プロフィール
HN:
霧守・暁
性別:
非公開
職業:
妄想人
自己紹介:
■下記PCの背後。
花月・鏡(d00323)
峨峨崎・非(d06993)

■イラストについて
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この作品は、株式会社トミーウォーカーのPBW『サイキックハーツ』用のイラストとして、
花月・鏡及び峨峨崎・非の背後(以降:霧守)が作成を依頼したものです。
イラストの使用権は霧守に、著作権は各イラストマスター様に、
全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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